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東京地方裁判所 昭和49年(借チ)1035号 決定

申立人

青木登

右代理人

小野田六二

外一名

相手方

天明秀穂

右代理人

若新光紀

外二名

主文

一  申立人が別紙目録(四)記載の改築をすることを許可する。

二  申立人は相手方に対し、一九三万円を支払え。

三  申立人と相手方との間の別紙目録(三)記載の賃貸借の賃料を本裁判確定の月の翌月分から3.3平方メートル当り月額二一三円に改定する。

理由

(申立の要旨)

申立人は、相手方所有の別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)につき、同目録(三)記載の賃借権を有し、同地上に同目録(二)記載の建物を所有している。

申立人は、右建物を同目録(四)記載のとおり改築する予定であるが、右改築につき相手方の承諾が得られない。

よつて、申立人は、相手方の承諾に代わる許可の裁判を求める。

(当裁判所の判断)

本件の資料によれば、申立の要旨記載の事実及び本件改築が土地の通常の利用上相当であることが認められるから、本件申立を認容することとする。

鑑定委員会は、本件許可の裁判をするに当り、当事者間の利益の衡平を図るため、申立人に対し、財産上の給付を命じ、あわせて賃料額の改定をすべきであるとし、その財産上の給付額は、本件土地のうち改築に係る本件建物の敷地部分を806.6平方メートル(二四四坪)、その更地価格を一億七五二万円(一平方メートル当り一三万三三〇〇円)、賃借権価格を更地価格の六六パーセントに当る七〇九六万円と算定し、本件改築により賃貸借の期間が更新されることを前提として、右賃借権価格に、近隣の慣行による平均更新料率6.5パーセントを乗じて得た額四六一万二〇〇〇円をもつて相当とし、賃料額は3.3平方メートル当り月額二一三円とするのが相当であるとの意見である。

当裁判所も、本件改築により、申立人は本件土地をより効率的に利用することができることになり、また、本件建物の朽廃時期が遅れ、あるいは期間満了時に相手方のする更新拒絶が困難になるなどして事実上賃貸借の期間に影響が及び、これにより相手方は不利益を被る反面、申立人は利益を受けることになるので、当事者間の利益の衡平を図るため、申立人に対し、財産上の給付を命ずべきであると考える。

しかしながら、本件改築により賃貸借の期間が当然に更新されるものではなく(ことに本件は一部改築である。)、また、本件は付随の処分として期間延長の裁判をするのも相当でない事案であるから、鑑定委員会が、本件改築により賃貸借の期間が更新されることを前提として財産上の給付額を算定している点は、にわかに同調できない。鑑定委員会の算定方法によると、残存期間の長短や増改築の程度、内容が考慮されないこととなるのも、不合理である。

当裁判所は、増改築を許可する場合の財産上の給付額については、増改築による当事者の利益、不利益(建物の朽廃時期の延長、期間満了時における更新拒絶の正当事由に対する影響、居住の快適性の増加等)が事柄の性質上一定の数式をもつて金銭に算定することの極めて困難なものであることに鑑み、建物の構造に関する借地条件変更の裁判のそれとの均衡を考慮し、従前の裁判例、鑑定委員会の意見等を参酌のうえ、通常の土地利用形態での全面改築の場合において、更地価格の三パーセントを一応の基準とし、一部増改築の場合においては、その増改築の規模、内容等に応じてこれを減額して算定することとしている。

鑑定委員会の意見による財産上の給付額は、右の基準に照らし高額に過ぎるものである。

本件建物は居宅であつて、収益用建物ではないこと、改築はその一部分であること、本件土地のうち中央部から西側へかけての大部分は急傾斜地と池であつて、現状においては、庭としてはとも角、建物敷地としては利用できない土地であり、かつ、西端は別棟の未登記建物二棟によつて使用されていること、その他本件記録に現われた一切の事情を考慮すると、本件においては、本件土地のうち、主として改築後の本件建物の敷地及び庭として利用されることとなる部分を鑑定委員会の意見のとおり806.6平方メートル(二四四坪)とみて、鑑定委員会の意見によるその更地価格一億七五二万円のほぼ1.8パーセントに当る一九三万円をもつて財産上の給付額とするのが相当である。

賃料については、本裁判確定の月の翌月分から鑑定委員会の意見のとおり、3.3平方メートル当り月額二一三円に改定することとする。

よつて、主文のとおり決定する。

(小林亘)

〈別紙目録(一)〜(四)省略〉

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